さるとびっき
『さるとびっき』
山形の昔話(原話語り手 川崎みさを)
武田正 再話
梶山俊夫 画
出版社 福音館書店
発行年月日 2016年3月1日
※月刊「こどものとも」1982年11月号
定価 本体900円+税
昔、こんぴらやまのふもとに、さるとびっき(かえる)がいました。
ある日、さるがびっきに、いっしょに田んぼを作ろうと提案します。
早速仕事に取り掛かったふたりですが、さるは仕事が嫌で、頭が痛いだとか腰が痛いだとか嘘をついて、ちっとも働きません。とうとうびっきは、ひとりで稲刈りまで終わらせました。
餅つきの日になってようやく顔を出したさるは、お餅をつき終わると、びっきに再び提案をします。
それは、山の上から餅の入った臼を転がして、先にお餅を拾ったものが食べることにする、というものでした。
びっきが嫌だと言うのも聞かず、さるは、こんぴらやまのてっぺんから、お餅の入った臼を転がしはじめました。ところが……?
本書は、「こどものとも」創刊60周年を記念して、「こどものとも 日本の昔話 10のとびら」として、2016年に復刊された10冊のうちの1冊です。
古くから語り継がれてきた昔話のおもしろさを、もっと現代の子どもたちに伝えたい、という思いで復刊されました。
さてこのおはなし、どこかで聞いたことがあるなあ、という方も多いかもしれません。
それもそのはず。各地で似たおはなしが伝わっている昔話で、さまざまな再話があります。
絵本では、本書の他に、『がまとうさぎのもちあらそい』(小澤俊夫・伊藤明美/再話 正高素子/絵 くもん出版)や『さるとかにのもちあらそい』(松谷みよ子/監修 水谷章三/文 二俣英五郎/絵 ※現在品切れ)、『さるとひきのもちあらそい』(稲田浩二/再話 南江津子/絵 文研出版 ※現在品切れ)、
読みもののかたちだと、『日本の昔話③』(稲田和子・筒井悦子/再話 多田ヒロシ/カット こぐま社)に「うさぎとひきのもち争い」が、『ちゃあちゃんのむかしばなし』(中脇初枝/再話 奈路道程/絵 福音館書店)に「さるとかにのもちあらそい」が収録されています。
本書のように、「さるとかえる」が登場するものもあれば、「うさぎとかえる」や「さるとかに」が登場するおはなしもあります。
『がまとうさぎのもちあらそい』の折り込み付録によると、日本の昔話の中で「餅争いー餅ころがし型」と呼ばれるタイプのおはなしだそう。本書では田んぼを作るところからおはなしがはじまりますが、『がまとうさぎのもちあらそい』のように、餅つきからおはなしがはじまるものもあります。
お餅を独り占めしようとするものの、最後には自分が痛い目に合う、というストーリーは分かりやすく、昔話の中でも、比較的幼い子どもたちから楽しみやすいおはなしです。
特に『がまとうさぎのもちあらそい』は文章も短く、シンプルで明快。(口承文芸学者の小澤俊夫先生が常々仰っていらっしゃる、まさに「シンプルでクリアー」な文体です)
おはなしの最後は、いっぱいに膨らんだお腹を幸せそうにさするかえると、隣でがっくり落ち込むうさぎの、絵の対比が分かりやすく、「ざっとむかし おしまい」で結末句(昔話の結びの言葉)となります。
それから、見返しに「きなこもち」、「あんころもち」、「ぞうに」なんて、いろいろなお餅が並んでいるのも、遊び心があって楽しい。
一方で、今日ご紹介した『さるとびっき』は、昔話らしい、豊かな語り口。
おはなしは、さるのほっぺたとおしりが赤い理由に繋がり、ちょっぴりばつの悪そうな顔をしたさるの絵と、結末句「むかし とーびん、ぴったり さんすけ」で終わります。この表情がなんとも言えず、嫌なやつなのだけれど、なんだか憎めなくて笑ってしまいます。
それぞれに良さがありますし、この2作以外にもいろいろな再話がある、餅争いのおはなし。
こうやってブログを書きながらも、そういえば、まんが日本昔ばなしでも似たはなしを見たことがあるような……と思って調べたら、「猿とつがねの餅つき」というタイトルでした。そうそう、これこれ!こちらの結末は、つがね(毛ガニ)の手にどうして毛が生えているのか、という理由に繋がって終わります。
ちなみに、『さるとびっき』は山形、『がまとうさぎのもちあらそい』は福島で、「猿とつがねの餅つき」は鹿児島の昔話だそうです。
※月刊「こどものとも」1982年11月号
定価 本体900円+税
昔、こんぴらやまのふもとに、さるとびっき(かえる)がいました。
ある日、さるがびっきに、いっしょに田んぼを作ろうと提案します。
早速仕事に取り掛かったふたりですが、さるは仕事が嫌で、頭が痛いだとか腰が痛いだとか嘘をついて、ちっとも働きません。とうとうびっきは、ひとりで稲刈りまで終わらせました。
餅つきの日になってようやく顔を出したさるは、お餅をつき終わると、びっきに再び提案をします。
それは、山の上から餅の入った臼を転がして、先にお餅を拾ったものが食べることにする、というものでした。
びっきが嫌だと言うのも聞かず、さるは、こんぴらやまのてっぺんから、お餅の入った臼を転がしはじめました。ところが……?
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本書は、「こどものとも」創刊60周年を記念して、「こどものとも 日本の昔話 10のとびら」として、2016年に復刊された10冊のうちの1冊です。
古くから語り継がれてきた昔話のおもしろさを、もっと現代の子どもたちに伝えたい、という思いで復刊されました。
さてこのおはなし、どこかで聞いたことがあるなあ、という方も多いかもしれません。
それもそのはず。各地で似たおはなしが伝わっている昔話で、さまざまな再話があります。
絵本では、本書の他に、『がまとうさぎのもちあらそい』(小澤俊夫・伊藤明美/再話 正高素子/絵 くもん出版)や『さるとかにのもちあらそい』(松谷みよ子/監修 水谷章三/文 二俣英五郎/絵 ※現在品切れ)、『さるとひきのもちあらそい』(稲田浩二/再話 南江津子/絵 文研出版 ※現在品切れ)、
読みもののかたちだと、『日本の昔話③』(稲田和子・筒井悦子/再話 多田ヒロシ/カット こぐま社)に「うさぎとひきのもち争い」が、『ちゃあちゃんのむかしばなし』(中脇初枝/再話 奈路道程/絵 福音館書店)に「さるとかにのもちあらそい」が収録されています。
本書のように、「さるとかえる」が登場するものもあれば、「うさぎとかえる」や「さるとかに」が登場するおはなしもあります。
『がまとうさぎのもちあらそい』の折り込み付録によると、日本の昔話の中で「餅争いー餅ころがし型」と呼ばれるタイプのおはなしだそう。本書では田んぼを作るところからおはなしがはじまりますが、『がまとうさぎのもちあらそい』のように、餅つきからおはなしがはじまるものもあります。
お餅を独り占めしようとするものの、最後には自分が痛い目に合う、というストーリーは分かりやすく、昔話の中でも、比較的幼い子どもたちから楽しみやすいおはなしです。
特に『がまとうさぎのもちあらそい』は文章も短く、シンプルで明快。(口承文芸学者の小澤俊夫先生が常々仰っていらっしゃる、まさに「シンプルでクリアー」な文体です)
おはなしの最後は、いっぱいに膨らんだお腹を幸せそうにさするかえると、隣でがっくり落ち込むうさぎの、絵の対比が分かりやすく、「ざっとむかし おしまい」で結末句(昔話の結びの言葉)となります。
それから、見返しに「きなこもち」、「あんころもち」、「ぞうに」なんて、いろいろなお餅が並んでいるのも、遊び心があって楽しい。
一方で、今日ご紹介した『さるとびっき』は、昔話らしい、豊かな語り口。
おはなしは、さるのほっぺたとおしりが赤い理由に繋がり、ちょっぴりばつの悪そうな顔をしたさるの絵と、結末句「むかし とーびん、ぴったり さんすけ」で終わります。この表情がなんとも言えず、嫌なやつなのだけれど、なんだか憎めなくて笑ってしまいます。
それぞれに良さがありますし、この2作以外にもいろいろな再話がある、餅争いのおはなし。
こうやってブログを書きながらも、そういえば、まんが日本昔ばなしでも似たはなしを見たことがあるような……と思って調べたら、「猿とつがねの餅つき」というタイトルでした。そうそう、これこれ!こちらの結末は、つがね(毛ガニ)の手にどうして毛が生えているのか、という理由に繋がって終わります。
ちなみに、『さるとびっき』は山形、『がまとうさぎのもちあらそい』は福島で、「猿とつがねの餅つき」は鹿児島の昔話だそうです。