いのちをいただく

『いのちをいただく』

文 内田美智子
絵 諸江和美
監修 佐藤剛史
出版社 西日本新聞社
発行日 2009年5月11日
価格 ¥1,200+税


坂本さんは、牛を殺してお肉にするのが仕事です。大切な仕事だとは分かっていても、殺される牛と目が合うたび、坂本さんはこの仕事が嫌になるのでした。
ある日のこと、明日殺される予定の牛がトラックに乗ってやってきました。「みいちゃん」という名のその牛に、10歳くらいの女の子が声を掛けているのを、坂本さんは聞いてしまいました。
「みいちゃんが肉にならんとお正月が来んて、じいちゃんの言わすけん。みいちゃんば売らんとみんなが暮らせんけん。ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ」

みいちゃんは、この女の子と一緒に育ったといいます。
坂本さんは“もうできん”と、この仕事をやめようと、思いました。

けれど、息子のしのぶ君と約束をして、翌朝坂本さんはみいちゃんの元へと向かいました――。

* * * * * * *

これは、実際にあったお話です。助産師として多くの講演活動を行っていらっしゃる内田美智子さんが、ある小学校で出会った、食肉加工センターでお勤めの坂本義喜さん。その時に坂本さんが語られていたお話を、内田さんはどうしても忘れることができず、文章に書き留めたものがこの本のもとになったといいます。
前半は、その実話に諸江和美さんが絵を付けたもの、後半は、九州大学農学部助教の佐藤剛史さんが農漁業や保育に携わる人たちを取材し、執筆した現場ルポ「いただきますということ」が収録されています。

前半のお話に出てくるのは動物の肉ですが、魚も、野菜も、穀物も、すべての食べものには命があります。そしてその命は、人によって殺されます。人が、生きていくために。

たくさんの命に支えられて、私たちは今ここに生きている。
私たちが忘れてはいけないこと、子どもたちに伝えていかなければならない大切なことが、とても丁寧に描かれた1冊です。

※前半はすべての漢字にルビがふってあります。後半はルビなしです。