きんいろのとき ゆたかな秋のものがたり

『きんいろのとき ゆたかな秋のものがたり』

アルビン・トレッセルト 作
ロジャー・デュボアザン 絵
江國香織 訳
出版社 ほるぷ出版
発行年月 1999年9月30日
本体価格 1,400円+税


秋。それは、夏が終わって、冬が来るまでのあいだ。
ともすれば見逃してしまいそうなくらい、短い時間のようにも感じます。

けれど、立ち止まってみれば、とてもゆたかで、美しいとき。

本書では、サブタイトルにある通り、そんな “ゆたかな秋” を描きます。

こがねいろの小麦、
とげとげのくりのいがからこぼれでる茶色い実、
落ち葉のしきつめられた森、
ぴかぴかの赤いりんご、金色のなし、
すみわたった夜空に、オリオンの星ぼし……。

並べられた言葉のひとつひとつが、頭の中に広がっては消えて、また広がっては消えてゆきます。

見開きの片方のページに文章、もう一方のページに絵が描かれていて、文章は、それぞれのページに合ったデザインで、額縁のように縁取られています。デュボアザンさんの描く挿絵と相まって、言葉のひとつひとつが、確かなイメージとして胸に残ります。

著者のアルビン・トレッセルトさんは、アメリカのニュージャージー生まれ。本書と同じデュボアザンさんとのコンビの、『しろいゆきあかるいゆき』(江國香織訳、BL出版刊)や『海がやってきた』(山下明生訳、BL出版刊)も、自然や季節をテーマにした、素晴らしい作品です。
それから、ワイスガードさんの挿絵が印象的な『あまつぶぽとりすぷらっしゅ』(渡辺茂男訳、童話館出版刊)も、トレッセルトさんが手掛けたもの。

作品によって翻訳者が異なるため、文章の雰囲気には違いがありますし、わたし自身、原文を読んだことがないので明確なことは言えませんが、それでもやっぱり、トレッセルトさんの作品は、詩的でいて、同時に、とても楽しいなと感じます。

例えば本書だと、
“秋のさいしょの つめたい空気が 夏の夜に そっとふれます” だとか、
“きっちりと ぼうしをかぶった まるまるふとったどんぐり” だとか。(この表現は、特に好き!)

“ハロウィンのかぼちゃが くいのうえで にんまりわらい 子どもたちは おかしな いしょうをつけて こわそうに たのしそうに 走っていきます”
なんていうのも楽しいな。

秋も深まる、今日このごろ。
気が付けば冬になっていた!なんてことのないように。
絵本を通して、そして、外へ出掛けて、秋の喜びをじっくりと味わえたら素敵ですね。